10月下旬。夏時間から冬時間に切替るこの時期を、イギリスで迎えるのは6年ぶりになります。夏時間(=サマータイム)とは、緯度が高い欧州や北米などで導入されている制度。3月最終日曜日午前1時〜10月最終日曜日午前1時の期間、時計の針を1時間早めて、日照時間の長さを有効利用するのが目的です。
高緯度の冬―。
私が知るイギリスのそれは、日本にも増して日の昇るのが遅く、登校、出勤時間でも外は薄暗く、おやつの時間にはとっぷり日が沈み、「ティールームでティーを」というより「パブでビアを」という台詞がおあつらえむき、というのが正直な感想です。
石畳の街路は底冷えを誘い、枯葉が風に運ばれる音は、乾いた空気で研ぎ澄まされて寂しさと共鳴します。古くは12世紀から残る建物が並ぶ街角は、陽光と夏の明るさは荘厳さを称えますが、曇天と冬の暗さは物々しさを語らせます。
日本での社会人生活を一時休止し、英国へビジネスインターン留学をしたのが2004年10月半ば。
家族に守られながら幼少期を過ごしたその同じ国で、今度は独りで生活し、学び、仕事をするというチャレンジに様々な気持ちが入り混じっていた頃、その焦燥感を知ってか知らずか、急き立てるように刻一刻と日が短くなり、「今日から冬だ」と告げられたことに、やけに心細さを覚えたこと。
それから1年後。無事にインターンを終え、修了書を手にして、また日本に帰れる! 次はどんな仕事や人の縁に導かれるのだろう・・・と、日に日に夏が手仕舞いしていく様子に自分の365日の総括をオーバーラップさせながら、ひとつひとつの経験と思い出をスーツケースに詰め込むように帰国支度をしたこと。
そんなことを振り返りつつ、今回また同じ季節に、こうして何度も迎え入れてくれる英国との不思議な繋がりに格別の思いを馳せながら、一週間の出張へ発ちました。
イギリスの冬の始まりは7時過ぎにようやく日が昇ります。ロンドンから北上中の車窓からの一枚 |
メインタスクは、世界中のアロマセラピストの地位や技術の向上、質の高いアロマセラピストの育成を目的に2002年に設立された英国最大のアロマセラピー協会IFPA(International Federation of Professional Aromatherapists) 認定校による会議・スクールミーティング、に参加し、同日行われる年次総会に出席、翌日のカンファレンス(学会)を聴講すること。IMSIとしては4年ぶりの参加です。
IFPAのリーフレット |
今回、11月末に開催されるTOUCH FOR WORLD INTERNATINAL WEEK2011(以下T4W)期間中に開催する第一回世界自然療法シンポジウムで特別講演を依頼しています、初来日の補完療法界のパイオニア、ピーター・マッカレスが、奇しくもこのカンファレンスでも初スピーカーとして登壇するとの知らせを受けたのが今年の春。
また、IFPA誕生から10年を迎える2012年、協会として更にInternational=国際部門に力を入れようと動き始めていることもあり、スクールミーティングでの私達海外認定校の声が貴重となるタイミングだ、という意見が日本国内の認定校仲間からも聞かれるようになり。更に、来年以降の来日イベントで好意的なオファーを申入れて下さっている先生方とも要調整な事柄があり・・・。
IMSIにとって、2011年10月〜11月は、アロマセラピーの東洋医学的アプローチで知られる、ガブリエル・モジェイの来日、初イベント開催準備の佳境・・・と、猫の手も借りたい事態となることが予測できたため、ギリギリまで出張の是非にアタマを悩ませましたが、今回も色々な方々の後押し、ご協力のお陰で訪英に漕ぎ着きました。
まずは出張のハイライトでもあります、カンファレンスでの様子を中心に、お伝えしていきたいと思います。
IFPAカンファレンス
IFPAカウンシル(理事会) |
「140名の席が全てSOLD OUT(売切れ)! 今年はスクールミーティングにも日本から3校も来てもらえたし、とても嬉しいわ。」前日の夜の関係者による懇親ディナーの席でIFPAの今期会長、アン・リーチが仰ってました。
設立から9年の間、カンファレンスについては会員より様々な要望や意見が寄せられ、
土日の2日間で行うべきか?
投宿先の手配や出費などの負担が少なく済む1日単位のほうが申込易いだろうか?
ロンドン近郊で国内外のアクセス利便性を重視すべきか?
はたまた、
地域差別にならないように、東西南北、王国内全ての地域巡業型の開催にすべきか・・・。
などなど、試行錯誤を繰り返してきた歴史のようです。
どの形に落ち着いても、関係者全員の100%満足を達成することはできないことに決して悲観せず、best effortベストエフォート=最善努力、で運営してきた理事達の姿勢は、年次総会やカンファレンスに参加してきた会員の方は少なからず目にしてきたかと思います。
それでも更に良くしていくための“声”を届ける熱意を持った会員と、要望に応えるためのたゆまぬ努力を重ねるカウンシル=理事会によって、こんにちのIFPAとカンファレンスの機会が維持されています。
蛇足ですが、日本の会員の皆さん宛に、協会本部からアンケートが届いているかと思います。これまで言葉の壁があり、日本の“声”を届けられなかったジレンマをお持ちの方、たくさんいらっしゃることでしょう。是非この機会を存分に生かして、会員による会員のための質の高い協会として発展していくためにも、協力していただけたらと、認定校として卒業生の皆様にお願い申し上げます。
さて、今年のスピーカーと演目は以下の通りです。
スピーカーと演目
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■ガブリエル・モジェイ
「神経性緊張、不安、うつに対するトリートメント
精油の化学とエネルギー」 |
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■ピーター・マッカレス
「緩和ケアにおけるアロマセラピストの倫理問題」 |
■アン・カーター
「緩和ケアにおけるアロマセラピー、セラピストの役割」 |
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■ペニー・プライス
「臨床における創傷ケア」 |
■ヴィヴ・ヒンクス
「在宅ホスピスにおけるアロマセラピーの提供」 |
“There is no blanket approach”- 「ブランケットアプローチはない」
トップバッターは、IMSIでも去年から教鞭をとってもらっています、ロンドンのInstitute of Traditional Herbal Medicine & Aromatherapy (ITHMA)校長のガブリエル・モジェイ。
前夜のディナーで「明日は一番・・・。実は1st slot=一番の時間枠、は得意じゃなくて。でも、写真係りを務めなきゃいけないから、とにかくスピーカーの役割だけでも最初に終わらせないと・・・」と、私に同意を求めるわけでもなく、自問自答しているかのように話していました(笑)
日本で開講するとき、彼の横で通訳をさせていただいている身としては、ガブリエルのパフォーマンス前というと、緊張よりも昂奮が勝っているように見受けられていたので、この様子は意外でした。ガブリエルほどの先生にとっても、カンファレンスは教室とは違う“舞台”なのでしょうね。
プレゼンのテーマは「神経性緊張、不安、うつに対するトリートメント 精油の化学とエネルギー」。日本でガブリエルの講座を受講いただいた方には、この精油のエネルギーということはお馴染みかと思います。東洋医学の伝統的な診断原理から、精油のホリスティックな使い方を紐付ける。これがガブリエル式とも言えるでしょう。
今回初めてお目見えした、写真の「五行の中の五行の輪」というチャートは日本からの帰国便で閃いて、フライト時間を使ってメモ用紙に素案を書き出したそうです。
これをどのように使っていくかという説明、詳細は来年のクラスまでお楽しみ! と、ガブリエルから言われていますが、ちょっと紹介しますと・・・
講演中のガブリエル |
例えば、不安(anxiety 不安神経症 )。
これは、五行の水の不調が関係していると判断していき、芳香エネルギーとしてその水のバランスを整えてくれる精油群の中から、適切なものを選んでいくわけですが、水のエレメントの中でも、さらに他の四つではなく、「鎮静、栄養、支える」という水の性質を持つ精油があるといいます。具体的には、スパイクナード、ベチバーの根のような芳香エネルギーが重要とのことです。
精油のこうしたサイコセラピューティック=精神療法的、な特性に注目しているガブリエルですが、アロマセラピーの利点は「マッサージがあること」と強調します。マッサージという「動」が加わるお陰で、滞った気を「動かす」ことができる。うつや精神的なアンバランス状態を抱える人とってマッサージは、タッチという心への働きかけに止まらず、精油と共にシナジー(相乗効果)をもたらしてくれるパワフルなトリートメント行為である、と熱を込めて語っていました。
また、精油のこうした特性を整理しつつも「万事において、Blanket approachブランケットアプローチ=一括手法、はありえない」といっていました。同じ病名で診断されても、同じフォーミュラーが適合するわけではない。個人に合わせたコンサルテーションとトリートメントアプローチの重要性をプロフェッショナルとして今一度、原点に立ち返って理解してもらいたい、と。
1時間のプレゼンタイムで、五行全てを語りつくすことが出来なかったのですが、途中、火のエレメントの時には、京都の金閣寺の写真を「神=シェン」を髣髴とさせるシンボル、金(ゴールド)が火であり、館(邸宅、house)であることから、気が宿る場所、「ハラ=腹(丹田)」の象徴だと感じる、と。ガブリエルらしい発想だなと感じました。
“Contactfullness”-「コンタクトフルネスが求められる現場」
二人目のスピーカーは、ピーター。マンチェスターにある欧州最大のがん専門病院、クリスティホスピタル内で、補完療法ユニットを率い、クリニカルリード=院内医療状況改善委員会委員長を務めています。(プロフィール詳細はこちら)。
クリスティホスピタル |
今回のプレゼンは「緩和ケアにおけるアロマセラピストの倫理問題」。
冒頭でピーターは、彼の看護師としてのキャリアの初期、ロンドンの総合病院に勤務していていた当事の医療行為、投薬における患者への倫理意識の低さなど、イギリス人らしいシニカルな冗談を交えながら振り返ることでアイスブレイキング。
続いて「私達の現場では、がん治療の副作用で、数日間、意識不明の状態に陥る患者も珍しくない。その患者はいずれ、薬や治療の影響が抜ければ、意識を取り戻すでしょう。
でも、それまでの間、緩和ケア、サポーティブケアの一環としてアロマセラピーは役に立たないだろうか? 意識のない患者の同意を得ることができない中で、どういう取り組みができるのか? 自分が率いる補完療法ユニットのチームメンバーは、毎日こうした課題と向き合って活動している。」と、本題に切り込みました。
特にがんケアの領域において、英国ではこの20年の間で緩和ケアとしての補完療法の利用に実質的な増加がみられ、アロマセラピーは“No.1セラピー”だそうです。
「アロマセラピーという職業が成長、発展していくためには、現場にいる私達プロフェッショナルがこうしたその動き全体に関わっていく必要があり、国や行政が施行する規制、発表する指針や動向を常に意識しなければならない」とし、NHS(英国国民保健サービス)が発行しているCancer Planカンサープラン=がん対策の包括的な行動計画(2000年9月に発表された10ヵ年計画)の照会。その中で目的として掲げられている
- より多くの命を救う
- 患者の生活の質を向上させる
- 不平等を減らす
などを引用し、「これらも実質的に倫理について多く言及している」と指摘しました。
そして、クリスティの補完療法チームが実際にどのようにこの計画に寄り添い、医療の補完に努めているかの例を挙げました。
ひとつには、アロマスティック(AROMASTIX)を用いた禁煙プログラム。タバコに手を伸ばす代わりに、アロマスティックを使って、深呼吸。リラックスして緊張をリリースし、タバコを吸いたい欲求を解消してくれるといいます。
もちろん、ニコチンリプレイスメントセラピーと並行しながら、としたうえで、「私と私のチームは患者のライフスタイル、行動を変えることで、患者の命を救っている。そして、患者の生活の質に関心をもって活動を行っている」と言っていました。
倫理、モラルとはどういうことか? カント倫理学の中の「義務論」やベンサムとミルズの「功利主義」の行動と規範を引用したスライドなども含まれていました。ピーターを紹介するときに、司会者が「彼は○○オロジー(学問)全般、得意な学術肌なのよ」と言って会場の笑いを誘っていましたが、それを受けて「エシコロジーの学位もとったので」と、倫理の英語“エシック”に、学問を意味する接尾辞“オロジー”をつけた即席造語でまた笑いを誘い、ともすると眠くなるような哲学も、ピーター流にエンタテインしてくれるのでした。
その他、緩和ケアの領域でセラピストとして、例えボランティアで活動するとしても、IFPAのようなプロフェッショナル協会に所属して、保険に加入することも倫理のひとつであると断言していました。(日本ではまだまだこのエリアがグレー、セラピストという職業に保険が必要という意識は低く、営業においても任意でありますが、英国ではセラピストの活動に保険はつきものです。)マンチェスター市として掲げるガイドラインの素案をピーターは作成しているそうです。
さらに、「説明責任」「職責」とは何かを問いました。特に医療従事者の現場である限り、セラピストが医師から患者のトリートメント・介入を委託されたら、医師に対しても職責を負うことになり、患者に対して行うことへの説明責任を、セラピスト自身のみならず、管理職の立場の人間、患者、所属する協会に対して負っている。ここまで明確に理解し、現場で活動するというプロ意識が必要だと説きました。
興味深かったのが、病院という現場において、近年ではもはや常識となっている「インフォームドコンセント」について、補完療法的観点からは「必ずしもできることじゃない」と明確に理解すべきだと強調していたことです。
ここは非常に“ホリスティックセラピー”ならではの概念だといえますが、「人の身体はそれぞれ違い、同じ病気を患っている患者二人に対して、同じセラピーを施し、同じ精油を使用し、同じ緩和ケアをしたとしても、生体の中でどう反応するかは個人差があり、結果がどうなるか分からない。”Unknown=未知”という要素は必ずある。僕自身もまだまだ日々是勉強、”Journey=旅”の途中だということを忘れない。」と言っていました。
また、補完療法の現場ではケアを行うプロフェッショナル全員に”Contactfullness”を求めたい、と言いました。これはピーターによる造語。Contact=接点、関係 がfullness=満ち足りるようにあれ。ということだそうです。
どういう意味かというと・・・
『カルテの上だけで患者を知るに留めず、患者一人ひとりの心理状態、その人全体を捉えた関わりを、その時々に満たし、続けていくこと。』
実際にピーターとクリスティのチームで働くセラピスト達は、驚くほど、携わった患者さん、一人ひとりの状況、がんと生きるようになる以前のことや、ご家族の状況、何が不安で、どういう状態でどのくらいの闘病が続いているのか、ということを動くデーターベースさながら、把握しています。
ここで注釈しておきたいことが、彼らのチームは毎日、全ての病棟を回診しているわけではないとうことです。補完療法では難しいと敬遠される事柄、例えば、データ解析のすばやさ、エビデンスの蓄積、資金源確保などをクリアしていること。それも言うまでも無く素晴らしく、ピーターの手腕として王室からも認められている功績ですが。
限られたスタッフ数、限られた患者さんとの接触時間・機会の中で、施術者としてその時間を“満足”に過ごし、使い、提供すること。クリスティのチームが、内外から注目され続けている理由のひとつでもあると感じています。
最後に「AROMA」という倫理的な意思決定モデルを紹介していました。
Assess = 評価 ・・・何が起こっているのか?何を知るべきか?自分の責任は何か?
Reflect = 熟考 ・・・専門家としての行動規範を利用する、個人的価値や信条・意見を検証し、
自分に課せられている説明責任を理解する
Option=選択 ・・・法で規制されていないか?自分の専門内/外のことか?
ここまでし判断したうえで、
Maximise the clients’ Autonomy = 患者の自律を最大化する
『「アロマセラピーを“代替”ではなく、“補完・統合”のアプローチとして確実なものにしていく」この意識をそれぞれに持ち帰ってもらいたい。』
プレゼンの最終スライドにはそう書かれていました。
続く
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